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水分活性とpHの連動による微生物生育制御の仕組み

pHと水分活性の両方を使用すると、どちらか一方だけよりも効果的に微生物を制御することができます。ここでは、食品メーカーがハードル技術を使用して配合を改善する方法を紹介します。

水分活性とpHは、微生物の生育を促進するかどうかを決定する最も重要な2つの固有因子で、直接腐敗につながります。水分活性とpHは相乗的に作用し、その複合的な制御効果は個々の効果よりも強力です。この相乗効果については、微生物制御のためのハードル技術で詳しく説明されており、また、米国食品医薬品局(FDA)の潜在的なリスクを持つ食品の定義を複雑なものとしています。

ここでは、水分活性とpHの複合的な力を利用することによって製品の食感と品質を向上させる方法をご紹介します。より穏やかな保存技術を使用して微生物制御を高める方法です。

How water activity prevents microbial growth

すべての生物と同様に、微生物は食物中の利用可能な水分に依存して成長します。そして、細胞膜から細胞内に水を取り込みます。この水の移動は、細胞外の水分活性の高い環境から細胞内の水分活性の低い環境へ水が移動するという水分活性勾配の仕組みによって起こります。

ところが、細胞外の水分活性がある限度まで低くなると浸透圧ストレスが発生し、細胞は水分を取り込めなくなって休眠状態に入ります。このとき、微生物は死滅するのではなく、感染を引き起こすほどの生育ができなくなるだけです。また、浸透圧ストレスへの反応は微生物によって異なります。そのため、生育に必要な最低限の水分活性も異なります。カビや酵母の中には、非常に低い水分活性に耐えられるように適応したものもあります。

各微生物には、生育が停止する特定の水分活性が存在します。 製品開発者の側で水分活性をこの水分活性値以下に保っている限り、問題となる微生物が感染や病気を引き起こすほど高いレベルまで増殖することはありません。 表1を参照。

表1. 微生物の成育最低水分活性
水分
活性値
(aw)
細菌 カビ 酵母 代表的な食品
0.97 ボツリヌス菌 E型
(Clostridium botulinum E )
シュードモナス・フルオレッセンス
(Pseudomonas fluorescens)
生肉、果物、野菜、果物や野菜の缶詰
0.95 大腸菌
ウェルシュ菌
(Clostridium perfringens)
サルモネラ属菌
(Salmonella spp.)
コレラ菌
(Vibrio cholerae)
減塩ベーコン、調理したソーセージ、点鼻薬、目薬
0.94 ボツリヌス菌 A型、B型
(Clostridium botulinum A, B)
腸炎ビブリオ菌
(Vibrio parahaemolyticus)
糸状菌
(Stachybotrys atra)
0.93 セレウス菌
(Bacillus cereus
糸状菌
(Rhizopus nigricans)
一部のチーズ、生肉(ハム)、ベーカリー製品、
エバミルク、外用ローション
0.92 リステリア菌
(Listeria monocytogenes)
0.91 枯草菌
(Bacillus subtilis)
0.90 嫌気性 黄色ブドウ球菌
(Staphylococcus aureus)
バラ色カビ病菌
(Trichothecium roseum)
出芽酵母
(Saccharomyces cerevisiae)
0.88 カンジダ菌(Candida)
0.87 好気性 黄色ブドウ球菌
(Staphylococcus aureus)
0.85 アスペルギルス・クラバタス
(Aspergillus clavatus)
加糖練乳、熟成チーズ(チェダーチーズ)、
発酵させたソーセージ(サラミ)。
乾燥肉(ジャーキー)、ベーコン、ほとんどの濃縮果汁、
チョコレートシロップ、フルーツケーキ、フォンダン、
咳止めシロップ、経口鎮痛剤懸濁液
0.84 耐熱性カビ
(Byssochlamys nivea)
0.83 ペニシリウム属菌
(Penicillium expansum、Penicillium islandicum,
Penicillium viridicatum )
デハリモセス・ハンセニー
(Deharymoces hansenii)
0.82 アスペルギルス属菌
(Aspergillus fumigatus、Aspergillus parasiticus)
0.81 ペニシリウム属菌
(Penicillium、Penicillium cyclopium、Penicillium patulum)
0.80 サッカロマイセス・バイリ
(Saccharomyces bailii)
0.79 ペニシリウム・マルテンシ
(Penicillium martensii)
0.78 アスペルギルス・フラバス
(Aspergillus flavus)
ジャム、マーマレード、マジパン、グラッセフルーツ、
糖蜜、ドライイチジク、魚の塩漬け
0.77 アスペルギルス属菌
(Aspergillus niger、Aspergillus ochraceous)
0.75 アスペルギルス属菌
(Aspergillus restrictus、Aspergillus candidus)
0.71 ユーロティウム・シェヴァリエリ
(Eurotium chevalieri)
0.70 ユーロティウム・アムステロダミ
(Eurotium amstelodami)
0.62 サッカロマイセス・ローキシィ
(Saccharomyces rouxii)
ドライフルーツ、コーンシロップ、甘草、マシュマロ、
チューインガム、乾燥ペットフード
0.61 モナスカス・ビスポラス
(Monascus bisporus)
0.60 微生物生育なし
0.50 微生物生育なし キャラメル、タフィー、蜂蜜、麺類、外用軟膏
0.40 微生物生育なし 全卵粉、ココア、液体咳止め
0.30 微生物生育なし クラッカー、でんぷん系スナック、ケーキミックス、ビタミン剤、座薬
0.20 微生物増殖なし ゆで菓子、粉ミルク、乳児用粉ミルク

微生物に成育限界水分活性が存在するという事実は、水分活性がHACCP計画でも重要管理ポイントとして利用できる確実で優れたツールであることを示しています。

相乗効果の可能性

表1の生育限界は、他のすべての条件(pH、温度など)が生物の生育に最適であることを前提としています。しかし、pH低下による生育限界の影響を水分活性の制御と組み合わせれば、実際には表中に示されるよりも高い水分活性で微生物の生育を制御することが可能です。

pHとは?

pHとは、溶液の酸性またはアルカリ性の度合いを示す指標です。0~7が酸性、7~14がアルカリ性を示します。中性である蒸留水のpHは7です。食品は中性か酸性のどちらかになる傾向があります。

微生物にはpHの生育限界がある

水の活性と同様に、微生物にもpHの限界があり、それ以下では生育しません。表2は、微生物が生育できるpHの下限を示しており、種類によって異なることがわかります。すべての微生物は、最適な生育のために中性のpHを好みますが、より酸性のpH値でも生育することができます。ほとんどの微生物は、pH5.0で生育を停止します。 中には4.6、さらには4.4までの微生物も存在します。歴史的にはpH4.6が生育の下限とされていましたが、pH4.2でも生育できる異常な微生物が存在することがわかり、食品規格の一部が変更されました。

表2. 細菌のpH生育限界
微生物名 下限値 最適地 上限値
ウェルシュ菌(Clostridium perfringens) 5.5-5.8 7.2 8.9
ビブリオ・バルニフィカス(Vibrio vulnificus) 5 7.8 10.2
セレウス菌(Bacillus cereus) 4.9 6-7 8.8
腸カンピロバクター属菌(Campylobacter spp.) 4.9 6.5-7.5 9
Shigella spp. 4.9 9.3
腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus) 4.8 7.8-8.6 11
ボツリヌス菌毒素(Clostridium botulinum toxin) 4.6 8.5
ボツリヌス菌の生育(Clostridium botulinum growth) 4.6 8.5
黄色ブドウ球菌の生育(Staphylococcus aureus growth) 4 6-7 10
黄色ブドウ球菌毒素(Staphylococcus aureus toxin) 4.5 7-8 9.6
腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic Esherichia coli) 4.4 6-7 9
リステリア菌(Listeria monocytogenes) 4.39 7 9.4
サルモネラ属菌(Salmonella spp.) 4.21 7-7.5 9.5
エルシニア・エンテロコリチカ(Yesinia enterocolitica) 4.2 7.2 9.6

pH調整の用途

微生物には生育限界があります。したがってpHを下げることは食品を保存し微生物の生育を防ぐ効果的な方法であり、HAACP計画の重要管理ポイントとして使用することも可能です。さらに、製造業者によっては風味を変えるためにpHを調整することもあります。これは、微生物の働き、酵素反応、または乳酸の生成を誘発する酢などの酸を使用する酸洗や発酵によって行われることが多いです。多くの化学反応はpHに依存しているため、pHを調整することで化学反応を防止または制御することができます。

水分活性とpH  組み合わせてより強力に

ハードル技術により、水分活性とpHの効果を組み合わせることで、より効果的に微生物を制御することができます。水分活性とpHの場合、それぞれのハードルが単独で発揮する効果よりも、両方のハードルが複合的に発揮する効果の方が大きくなります。つまり、pH単体、あるいは水分活性単体では通常安全でないと考えられるレベルでも、効果的な微生物制御が可能になるのです。現在有効な2013年食品規約には、表3および表4に示すpHと水分活性の相互作用表があり、安全性のための時間および温度管理(TCS)が当該食品に必要かどうかの判断に使用することができます。

表3. 増殖性細胞を破壊するために熱処理され、その後包装された食品中の芽胞の制御に関する pH と aw の相互作用(TCS は安全のための時間と温度のコントロールを意味し、PA は製品評価が必要なことを意味する)
aw値 pH:4.6以下 pH:4.6~5.6 pH:5.6以上
0.92 or less 非TCS食品* 非TCS食品 非TCS食品
>0.92-0.95 非TCS食品 非TCS食品 PA**
>0.95 非TCS食品 PA PA
表4. 加熱処理されていない、あるいは加熱処理後包装されていない食品中の増殖性細胞および芽胞の制御に関するpHとawの相互作用(TCS は安全のための時間と温度のコントロールを意味し、PA は製品評価が必要なことを意味する)
aw値 pH:4.2以下 pH:4.2~4.6 pH:4.6~5.0 pH:5.0以上
>0.88 *非TCS食品 非TCS食品 非TCS食品 非TCS食品
0.88-0.90 非TCS食品 非TCS食品 非TCS食品 PA**
>0.90-0.92 非TCS食品 非TCS食品 PA PA
>0.92 非TCS食品 PA PA PA

表3は、微生物を死滅させるために熱処理された後に包装された食品に適用されます。水分活性やpHを下げることは殺菌工程ではありません。 微生物を除去するものでもありません。有害なレベルまで微生物が生育するのを防ぐための手段に過ぎません。熱処理によって芽胞形成細菌を除くすべての微生物が破壊されるため、高めの水分活性とpHで包装することができます。この条件では、水分活性0.92aw、pH4.6以上でも安全であるとみなされます。

表4は、熱処理をしていない製品、または熱処理をした上で包装していない製品に適用されます。一般的にこれらの製品は、水分活性が0.88aw未満、またはpH値が4.2未満であれば安全であるとみなされます。しかし、水分活性とpHを組み合わせれば、より高い値も許容されます。

表5は、一般的な食品の水分活性とpHを示したものです。イチゴジャムは水分活性がとても高いですが、pHはかなり低めです。クエン酸が含まれているため、水分活性が高くてもpHは微生物の繁殖を防ぐのに十分なほど低くなっているのです。マスタードもpHは非常に低いのですが、水分活性は高めです。これらの製品が安全なのは、水分活性ではなく、pHのためです。メープルシロップは糖分が多いので水分活性は低いのですが、pHはかなり中性です。この場合、安全性をもたらすのは水分活性であり、pHではありません。

表5. 一般的な食品の水分活性とpH
種類 水分活性 pH
イチゴジャム 0.9874 3.7
イエローマスタード 0.9745 3.6
ホットソース 0.9642 3.6
地中海イタリアンドレッシング 0.9628 3.8
ランチドレッシング 0.9561 3.9
焙煎ごまドレッシング 0.9488 4.1
ケチャップ 0.9440 3.6
マヨネーズ 0.9393 4.1
フレンチドレッシング 0.9344 3.4
バーベキューソース 0.9333 3.8

水分活性とpHをプロットした図1は、両者の間に何ら直接的な関係がないことを示しています。 製品に酸を加えてpHを下げれば、水分活性に何らかの影響があるかもしれません。なぜなら、酸性の物質は極性を持つ傾向があり、水と優先的に相互作用するからです。 しかし、基本的にはpHを下げても、水分活性が直接的に下がることはありません。

図3. 水活性とpHの関係:直接的な関係はない
図3. 水活性とpHの関係:直接的な関係はない

水分活性をコントロールする方法

製品の水分活性を下げる最も一般的な方法は、乾燥または加熱することです(ただし、これを適切に行うには、まず製品の収着等温線を理解する必要がある)。また、塩、砂糖、果糖ぶどう糖液糖、ソルビトール、マルトデキストリンなどの保湿剤を添加することでも水分活性を制御することができます。

pHをコントロールする一般的な方法

pHを下げる最も一般的な方法は、発酵させることです。発酵は、「善玉」細菌に頼って乳酸を生成し、製品のpHを下げ、他の種類の生物の繁殖を防止します。また、酸(酢、乳酸、クエン酸)を直接製品に加えたり、スパゲティソースにトマトのような天然の酸味料を加えたりして、pHを調整することもできます。

水分活性とpH 測定は迅速で簡単

水分活性とpHは、組み合わせるとより効果的な測定になります。どちらも市販の水分活性測定装置やpH計で簡単に測定できます。

水分活性とpHについてもっと知る

このウェビナーでは、ブレイディ・カーター博士が水分活性とpHの理論や測定方法について解説します。また、最高レベルの製品安全性を実現するために、これらのツールをどう効果的に併用するかについても説明しています。