水分活性101:基本をマスターしよう
水分活性を正しく理解することで、製品、包装、製造方法など、多くのことを改善することができます。 まずは水分活性の基礎を学びましょう。
水分活性を理解する
水分活性は、多くの人にとって直感的に理解できる概念ではないかもしれません。しかし、一度理解すれば、食品中の水分をコントロールすることができるようになります。微生物の生育を防ぐことは、そのほんの始まりに過ぎません。
この20分間のウェビナーでは、水分活性のエッセンスを凝縮してお伝えします。以下の内容を学びます。
- – 水分活性とは何か
- – 水分活性と水分含量の違い
- – なぜ水分活性は微生物の生育を制御できるのか
- – 水分活性を理解することで、製品の水分管理にどのように役立つのか
プレゼンター
メアリー・ギャロウェイはメーターグループ食品開発ラボ主席研究員として8年勤務。水分活性とその物理的特性への影響を測定する機器の使用と試験を専門としています。多くのエンドユーザーと協力して、水分に関わる製品の問題を解決してきました。「水分活性とは何か?」という質問に答える機会も多々あります。
水分活性101
食品メーカーは、どのようにしてレーズンの柔らかさとフレークのパリッとした食感を維持し、固結を防ぎ、製品が腐敗しやすいかどうかを判断しているのでしょうか?実は、これらはすべて水分活性がコントロールしている問題です。したがって、水分活性の仕組みを理解すれば理想的な製品開発が可能になりますし、潜在的な保存上の問題を予測し、その発生を事前に防ぐことができます。
水分活性の定義
熱力学の原理:
- エネルギーはプロセスを発生させる原動力となるものである
- エネルギーが大きければそれだけプロセスも多くなり、できる仕事(機械的、熱量的、化学的)も増える
- 高い状態にあるエネルギーは、安定を求めてエネルギーを低下させようとする
水分活性(aw)は、システム内の水のエネルギー状態を表す尺度です。これは熱力学の基本法則の一つであり、同じルールが適用されます。水は、水分活性が高いほどエネルギーが高く、微生物の生育、水分の移動、あるいは化学反応や物理反応など、より多くの仕事をすることができます。したがって水分活性の違いは、(濃度ではなくエネルギーの観点から)水分の移動をもたらします。水分活性が高い水は水分活性が低い水よりも高いエネルギー状態にあるので、エネルギー状態を下げてより安定した状態になるために、水分活性の低いところへ移動するからです。
エネルギーシステムでは、ギッブスの自由エネルギー式(式1)を適用して、ある温度におけるシステム内の水の活性を求めることができます。システム内の水のエネルギーは、純水のエネルギー(µo)に気体定数(R)× 温度定数(T)、フガシティーの自然対数を加えたものに等しくなります。この式において留意すべき点は、水のエネルギーを決定するための唯一の従属変数がフガシティーであることです。
フガシティー(逃散能)とは?
フガシティ(f/f0)とは、物質の逃げやすさ、つまり、試料からどの程度の蒸気が逃げ出すことができるかを示したものです。
- f/f0 = p/p0
- p/p0 = χ °Cでの試料上の水の蒸気圧 / χ °Cでの純水の蒸気圧
- p/p0 = aw
フガシティーは分圧、つまりある温度における試料上の水の蒸気圧を、同じ温度における純水の蒸気圧で割った値で測定されます。そして、この相対蒸気圧(蒸気分圧と呼ばれることもある)こそが水分活性です。つまり、試料の蒸気分圧を求めれば、水分活性を算出することができるのです。
図1は、蒸気圧とは何かを説明したものです。左側の容器には食品の試料を入れて密閉します。すると、この試料に含まれる水が水分子の形でヘッドスペースに逃げていきます。これらの分子は密閉された容器の中に特定の圧力を発生させます。そして、この圧力と右の容器で示される純水が発生させる圧力とを比較します。水分活性は2つの圧力の比であるため単位はなく、0(エネルギーなし)から1(純水と同じエネルギー)までの尺度で測定されます。
ここで重要なのは、蒸気圧を平衡させること、つまり温度と蒸気圧を一定に保つことです。25 °Cにおける水分活性と35 °Cにおける水分活性は異なります。一般的には温度が上がると水分活性が高くなります。つまり、ある日25 °Cで測定し、翌日別の温度で測定しても、水分活性は温度に依存する特性があるため、同じ水分活性にはならないのです。
水分含量の定義
一次法:加熱乾燥法(式2)
一次法 滴定法 (式3)
水分活性がエネルギー状態であるのに対して、水分含量は定量的な尺度、つまりは水の量です。水分含量はプロセスを発生させる原動力ではありません。食感には影響しますが、製品の反応や変化の原動力にはなりません。測定には主に2つの方法があります。
- 加熱乾燥法: 試料の湿潤重量から乾燥重量を差し引き、乾燥基準の場合は乾燥重量で、湿量基準の場合は湿潤重量で割り、その合計に100を掛けて百分率で表します。どちらの基準で計算するかは重要で、それぞれ答えが異なります。これは、異なる重量で割っているためです。残念なことに、加熱乾燥法では、どちらの基準で割ったのかが記載されていないことが多いです。通常、水分含量として表記されるだけです。メーターグループでは、乾燥重量では水分含量がマイナスになる可能性があるため、湿量基準を使用しています。また、加熱乾燥法では水以外の物質、例えばアルコールなどの揮発分が蒸発し、結果、水分含量が増えてしまうという問題もあります。
- 滴定:(カールフィッシャー法)水、ヨウ素、一部の溶媒を用いた化学反応です。水を使い切るまで反応を続け、その時点で溶液の電気伝導度が変化します。この電気伝導率を測定し、水分含量を算出します。この方法には潜在的な問題があります。その1つは、すべての水を可溶化して反応に利用できなければならず、製品が液体でない場合は困難が生じます。また、どの溶媒を使えばいいかを理解している必要があります。どんな試料にも使える万能な溶媒は存在しません。多くの種類の試料に使用できる溶媒はありますが、すべての試料に有効というわけではありません。また、溶媒によっては副反応が起こり、測定に影響を与えることもあります。
水分測定の問題点は、比較のための標準(スタンダード)がないことです。Xという固有の水分含量を持つ標準がなければ、比較することができないのです。水分含量何パーセントという答えは得られますが、それが正確かどうかはわかりません。
水分活性 | 水分含量 |
---|---|
エネルギー | 量 |
質的 | 定量的 |
原動力となる | 原動力とはならない |
特定のaw値に調整された標準液(食塩水) | 標準のない経験的測定 |
湿量基準または乾燥基準の定義が必要(加熱乾燥法) |
水分活性のデモ
クッキーとハチミツの水分含量を比較した場合、普通、ハチミツの方が水分含量が多いと考えます。それは事実です。はちみつの水分含量は18%、クッキーは5%です。しかし、この2つの食品の水分活性は同じ(0.60aw)です。つまり、クッキーをはちみつの中に1週間沈めても、クッキーは柔らかくならないのです。なぜでしょうか?水分含量ではなく水分活性が反応(この場合は水分移動)の原動力だからです。エネルギー(水分活性)が同じなので、水分移動は起こらないのです。
水分活性と水分含量の用途
水分活性と水分含量にはそれぞれ用途があります(表2)。覚えておいてほしいのは、水分活性は保存上の問題をより正確に予測・防止する方法であるのに対して、水分含量は食感に影響を与えるものであるということです。どのような製品にしたいかにもよりますが、水分含量は食感を改善するための手段として利用することができますし、法定表示に記載する重要な成分濃度や栄養価を決定するためにも使用できます。また、製品に水分含量の制限がある場合(例えばペットフードは10%以下)、製品がその基準に準拠しているかどうかを知るためには、水分含量を測定する必要があります。
水分活性 | 水分含量 |
---|---|
微生物の生育を抑制する | 特定の水分活性で食感を調整する |
水分の移動を制御する | 成分濃度を決定する |
固結を防止する | 栄養価を決定する |
収益性の高い製品の開発する | 法定表示要件 |
化学反応の速度を制御する | |
乾燥原料の混合のモデルを作る | |
温度変化による影響を予測する | |
最適な食感を実現する | |
保存性試験を実施する | |
包装の必要性を予測する |
水分吸脱着等温線
水分活性と水分含量の関係は、製品によりそれぞれ異なります。図2は、メーターグループが分析した、製品の水分活性と水分含量の関係を示したものです。それぞれ全く異なるグラフになっており、その形状も異なっています。
水分活性と水分含量との関係を示したものを水分収着等温線と呼び、これを用いて臨界水分活性を求めることができます。臨界水分活性とは、試料の吸湿特性が物理的に変化し、より多くの水分を取り込むことができる地点のことです。臨界水分活性は、曲線の傾きが変化することで決定されます。傾きが変化する水分活性では、製品の質感が変化したり、他の種類の反応が起こったりします。
ある配合と別の配合の等温線を比較することで、2つの配合を混合した場合の影響を判断することができます。例えば、乾燥原料の混合モデルを作成し、2つの新しい原料を混合したときの水分活性を予測することができます。また、温度変化の影響も判断できます。製品が出荷され、高温のトラックや倉庫に保管された場合、小売店に届いたときにその製品はどうなっているでしょうか。さまざまな温度で等温線を測定し、その影響を予測することができます。等温線は賞味期限を予測するためにも不可欠です。
微生物の生育
微生物は、生育するために水を必要とします。そして、周囲環境から生育に必要な水を得ます。生物は、周囲環境の水分活性が生物内の水分活性よりも低くなると、浸透圧ストレスを受けます。図3では、細胞内の水分活性は0.95aw、細胞外の水分活性は0.90awです。水分は、水分活性が高い場所から低い場所へと移動するので、細胞内の水は細胞外に出て行き、膨圧が低下します。細胞は代謝過程を変化させて内部の水分活性を下げ、適応しようとします。環境に合わせることができれば、生育するのに十分な水やエネルギーを確保することができます。
しかし、環境に適応できない場合はどうでしょうか。図3の別の細胞は水分活性が0.93awで、細胞外の水分活性が0.9awです。この場合、細胞が成長し、繁殖するためのエネルギーが足りず、休眠状態になります。
微生物がどれだけ適応して水分活性を下げられるかで、その微生物が生育できる水分活性の限界が決まります。1950年代、ウィリアム・ジェームズ・スコット博士は、微生物にはその値以下では生育しない水分活性があることを明らかにしました(表3)。このように、微生物にはそれぞれ生育を抑制する水分活性が存在し、それ以下の環境では生育できません。
微生物名 | 生育最低水分活性値 |
---|---|
ボツリヌス菌 E(Clostridium botulinum E) | 0.97 |
シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluorescens) | 0.97 |
大腸菌 | 0.95 |
ウェルシュ菌 | 0.95 |
ボツリヌス菌 A 及び B(Clostridium botulinum A、B) | 0.94 |
サルモネラ属菌 | 0.95 |
腸炎ビブリオ菌(Vibrio parahaemoliticus) | 0.94 |
セレウス菌 | 0.93 |
リステリア菌(Listeria monocytogenes) | 0.92 |
枯草菌(Bacillus subtilis) | 0.91 |
黄色ブドウ球菌(嫌気性) | 0.90 |
黄色ブドウ球菌(好気性) | 0.86 |
表3から、サルモネラ属菌の水分活性の限界が0.95awであることがわかります。これは、製品の水分活性が0.95awで、pH、温度、栄養の条件が理想的で競合する種が存在しない場合、サルモネラ属菌は生育できないことを意味します。これらの条件のいずれかが変化したり、微生物の生育にとって理想的でない状況が生じた場合、限界水分活性が上昇することも考えられます。細菌はこの限界水分活性よりも高い水分活性で生育することができますが、限界水分活性よりも低い水分活性では生育が不可能です。クッキー、粉末、ペットフードなど、どのようなマトリックスであっても、たとえこれらの細菌が存在したとしても、その限界水分活性値以下では生育しないのです。
なお、水分活性は細菌を殺したり、除去したりするものではありません。微生物の生育を制御するために用いられるものであり、製品は安全な状態にはなりますが、無菌というわけではありません。細菌はまだ存在しているのです。もし、ある食品の水分活性が食品内に存在する細菌の生育限界値より高い状態であれば、その細菌は生育する可能性があります。これは潜在的な問題ではありますが、水分活性が十分に低くなるように処方すれば問題はありません。
また表から、黄色ブドウ球菌(好気性)が生育できる水分活性の下限が0.86awであることがわかります。したがって、0.86awを超える食品は、黄色ブドウ球菌(好気性)が生育する潜在的な危険性を持っていることになります。これら有害な細菌が生育すると食中毒の原因となるため、潜在的に危険な食品であるとみなされます。それに対して0.85aw以下は、そのようなことが起こり得ない限界の水分活性値となります。
水分活性の範囲 | この範囲の水分活性で一般的に抑制される微生物 | 一般的にこの範囲に含まれる食品 |
---|---|---|
0.95-1.00 | シュードモナス属(Pseudomonas)、大腸菌(Escherichia)、プロテウス属(Proteus)、赤痢菌(Shigella)、クレブシエラ属(Klebsiella)、ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)、サルモネラ属(Salmonella) | 新鮮な果物、果物や野菜の缶詰、魚類 |
0.90-0.95 | 出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)、腸炎ビブリオ(Vibrio parahaemolyticus)、セラチア属(Serratia)、ラクトバチルス(Lactobacillus)、ペディオコッカス属(Pediococcus)、セレウス菌(Bacillus cereus)、リステリア菌(Listeria monocytogenes) | 一部のチーズ(チェダー、スイス、プロヴォローネ、ムエンスター)、生ハム |
0.85-0.90 | 黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、ミクロコッカス属(Micrococcus)、多くの酵母(Candida、Torulopsis) | サラミ、カステラ、ドライチーズ、マーガリン |
0.85 以上 |
潜在的な危険性のある食品 | |
0.80-0.85 | 毒素産生ペニシリン(Penicillum expansum、Penicillum islandicum)、および一部の酵母(Saccharomyces bailii、Debaromyces hansenii) | 濃縮果汁、コンデンスミルク、シロップの大部分 |
0.75-0.80 | 好塩性細菌、毒素産生アスペルギルス(Aspergillus niger、Aspergillus ochraceous、Aspergillus candidus) | ジャム、マーマレード、マジパン |
0.65-0.75 | 好気性カビ(Erotium chevalieri、Erotium amstelodami、Wallemia sebi)、浸透圧酵母(Saccharomyces bisporus) | ゼリー、糖蜜、粗糖、ナッツ類、一部のドライフルーツ |
0.60-0.70 | 食品腐敗を引き起こすカビは存在できない | |
0.60-0.65 | 好酸性酵母(Zygosaccharomyces rouxii)、いくつかのカビ(Aspergillus enchulatus、Monascus bisporus) | 水分15~20%のドライフルーツ、一部のキャンディー、はちみつ |
0.60 以下 |
微生物生育なし | |
0.50-0.60 | 微生物生育なし | 乾燥パスタ、香辛料 |
0.40-0.60 | 微生物生育なし | 全卵粉 |
0.30-0.40 | 微生物生育なし | クッキー、クラッカー、パン生地 |
0.20-0.30 | 微生物生育なし | 焙煎した挽き豆コーヒー、テーブルシュガー |
表4は、カビや酵母を含む様々な微生物の生育限界の範囲を示した全体像です。それぞれの水分活性範囲に該当する典型的な食品も記載されています。0.85aw以上は潜在的なリスクを持つ食品であることに注意してください。カビは生育限界水分活性が低いのですが、腐敗に関与するカビの生育限界は0.7aw、またはそれ以上です。0.6aw以下では、どの微生物も生育できません。この情報をもとに、潜在的なリスクがなく、腐敗の原因となるカビの影響を受けにくい食品を製造することができます。
水分活性の作用
カビを防ぐ
ある生産者が、水分含量が4%になるまでピーカンナッツを乾燥させました。彼は水分含量4%が微生物の生育を防ぐのに十分な乾燥度合いなのかはわかりませんでしたが、過去にこの仕様で問題が起こったことはありませんでした。もしも彼が水分活性と水分含量との関係を調べるために水分収着等温線を参照していれば、ピーカンの水分含量が4%のときの水分活性は0.68awであることがわかるはずです。そして、0.68awはカビの生育限界水分活性を下回っています。つまり、水分活性が0.68awのままであれば、水分含量4%はカビを防ぐのに十分な仕様なのです。
ところが、この生産者のピーカンにカビが発生してしまいました。なぜでしょうか。
水分含量の測定精度が±0.5%であったことが理由です。水分含量の測定結果は4%だったものの、実際には4.5%に近い値でした。これにより、カビが生育できない水分活性の安全基準を超えていたのです。このケースでは、水分含量は十分な安全指標ではありませんでした。なぜなら、水分含量は3.5%から4.5%の範囲という曖昧な数値であって、正確な水分含量はわからなかったからです。
もし、ピーカンの含水率が3.5%から4.5%の間で変動していたら、カビが発生しやすいだけでなく、生産者の利益も減少する可能性があります。水分が低いとナッツの品質が悪くなり(硬くなり)、1袋に入れるナッツの量も多くしなければなりません(オーバーパック)。しかし、より正確な水分活性測定装置を使えば、この2つの問題を防ぐことができます。水分活性を0.68awに管理することで、水分含量を正確に4%に保つことができるからです。
固結を予測する
乾燥スープを製造するある食品メーカは、粉末スープのミックスを水分含量3%に加工しました。そして、粉末スープに加えるためのコショウを入手しましたが、そのコショウも水分含量が3%でした。しかし、この2つの原料を混ぜたところ、バッチ全体が固結しました。何が起こったのでしょうか。そうです。2つの原料の水分含量は同じ3%でしたが、水分活性が異なっていたのです。
粉末スープミックスの水分活性は0.28awで、コショウの水分活性はスープの臨界水分活性(critical aw)を超える0.69awでした。水分は、水分活性が高いところから低いところへ移動するため、コショウから粉末スープミックスに水分が移動し、混合物が固まってしまったのです。もし、コショウの水分活性を事前に測定していれば、0.69awがスープの臨界水分活性を超えていることを把握し、固化や凝集を予測することができたはずです。この食品メーカーは、新たに仕入れた原料の水分活性を追跡することによって原料供給業者の品質を監視し、臨界水分活性を下回る許容量を設定することができました。また、この情報をもとに入荷する原料の一貫性を保つことができるようになりました。
問題のない配合を実現するために
水分活性は製品の配合にも不可欠です。もしあなたがスナックケーキの製造業者で、材料となるアイシング、クリームフィリング、ケーキのそれぞれの水分収着等温線を作成した場合、水分活性と水分含量の関係が各材料で異なることがわかるでしょう。それぞれの曲線は異なる形状をしています(図4)。
水分活性が0.7aw弱(縦線)のとき、材料はすべて異なる水分含量を示しています。アイシングは5%、クリームフィリングは15%に近く、ケーキは20%です。それぞれの材料の水分含量により、お客様がスナックケーキを口にしたときの食感が変わります。したがって、3つの材料をこの水分活性の数値に合わせて配合することで、各材料の水分含量と食感を維持することができます。すべての材料の水分活性が同じであれば、1つの材料から別の材料へ水分が移動することはありません。
オーバーパックの削減と利益の増加
あるペットフードメーカーは、これまでその規格で腐敗が発生したことがなかったため、水分含量6.5%でペットフードを製造していました。しかし、水分収着等温線を作成したところ、水分含量が6.5%のときの水分活性は0.4awであり、微生物の成育限界水分活性をはるかに下回る規格であったことが判明しました。水分含量を低く設定し過ぎていたのでしょうか。その通りです。ペットフードの許容水分含量は10%なので、水分含量と水分活性をより高く設定することにより、食品の安全性を担保しながらも利益率を上げ、食感を改善することができます。
このペットフードメーカーは、等温線データを使って水分活性の限界値を特定して賞味期限の計算を行った結果、水分含量9.5%に相当する新たな水分活性規格を0.6awに設定しました。この値はいずれも安全性と規制の範囲内でした。そこで、水分活性と水分含量の規格を上げることで原材料のコストを削減することができたのです。同じ量のペットフードを作るのに、原材料に占める水の割合を増やすことでより少ない原材料で生産できるようになったわけです。また、オーブンで焼く時間が短くなったため、電気代や熱量も削減できました。そして、水分含量が多いので、より美味しい製品になりました。水の働きを理解することで、このメーカーは品質や安全性を犠牲にすることなく利益を上げることができたのです。
化学的/生化学的安定性の向上
水の活性は、食品や医薬品の中で起こる様々な種類の化学反応の反応速度に影響を与えます。
図5はテッド・ラブーザ博士が開発したグラフで、水分活性が0.6aw付近でほとんどの反応速度が上昇することを示しています。また、どこで細菌、酵母菌、カビが生育し、どこで酵素活性が上昇するのかがわかります。褐変反応は0.6aw付近でピークに達し、その後減少します。これは、その時点でマトリックス中の水分が多くなり、反応が弱まるためです。脂質の酸化は水分活性が低いときに高くなり、水分活性が高くなると再び高くなるという珍しい傾向を示します。興味深いことに、水分活性が0.3~0.4awの間はより安定しています。これはポテトチップスなどの脂質や油を多く含む製品にとっては重要なことです。
水分活性が必要な理由
水分活性とは、あるシステムにおける水のエネルギーであって、製品自体に内在する定性的なものです。微生物の生育、水分の移動、物理的・化学的変化などを可能にする原動力です。それに対して、水分含量は単に水の量です。原動力ではないので水分が引き起こす結果を予測することはできず、わかるのは含まれる水分がどれだけの量かだけです。
水分活性は、微生物の育成を防ぎ、物理的・化学的安定性を維持し、製品を配合し、賞味期限を予測するための信頼できる尺度なのです。
参考文献
Labuza, Ted P., K. Acott, S. R. TatiNl, R. Y. Lee, Jv Flink, and W. McCall. "水分活性の測定:異なる方法の共同研究". ジャーナル・オブ・フード・サイエンス 41, no. 4 (1976): 910-917.
Scott, W. J. "Water relations of food spoilage microorganisms." (食品腐敗微生物の水分関係)。Advances in food research, vol.7, pp.83-127にて。Academic Press, 1957.