記事一覧

ナレッジベース

常温保存可能な食肉製品の水分活性

水分活性。測定する手間さえ惜しまなければ、受ける恩恵は大きいです。このガイドではその方法をご紹介します。

HACCPプラント水分活性

米国農務省(USDA)の検査官は、HACCPプランの重要管理点(CCP)として、通常、乾燥と包装の過程で水分活性を測定することを期待しています。水分活性が0.85aw未満であることは食品安全検査局(FSIS)の規制要件であり、保存安定性HACCPモデルにおいて要求されています。これに対して、MPR(水分とたんぱく質の比率)や含水率をなどのその他の水分測定は「安全上の考慮事項ではない」とされ、HACCPプランには含まれません。さらにUSDAは、「製品の水分活性は、各病原体の増殖抑制と最も相関が高い」と説明しています。

なぜでしょうか。

水分活性を下げると病原体の増殖が抑制されるのはなぜか

マリアンスキー夫妻は『発酵ソーセージの作り方』の中で、「水分活性を制御することは、細菌から餌を奪うようなものである」と鮮やかに表現しています。水分活性を下げることで、水分を「閉じ込め」、最終的にはバクテリアの繁殖を不可能にすることができるのです。詳しく見てみましょう。

リステリア菌大腸菌、黄色ブドウ球菌、サルモネラ菌などの微小生物は、他の生物と同様に成長や繁殖のために水を必要とします。これらの菌が水を得るためには、細胞膜を通じて水を吸収する必要があります。この吸収力は、細胞内と細胞外の水のエネルギー差から生じます。

水が高いエネルギーから低いエネルギーへと移動することは容易に理解できます。沸騰した鍋をイメージすると分かりやすいでしょう。水の分子は高いエネルギーを持つ沸騰しているお湯から、低いエネルギーを持つ大気中へ水蒸気として移動します。

クラッカーとチーズのエネルギー差はそこまで極端ではないものの、チーズがクラッカーの上に置かれると、水分子は高いエネルギーを持つチーズから、低いエネルギーを持つクラッカーへと移動します。

この原理は、分子レベルでも成り立ちます。病原性細菌はこの原理を利用して、細胞の外側の高い水エネルギー環境から細胞内のより低い水エネルギー環境へと水を引き寄せます。

しかし、細胞外の水のエネルギーが低下すると「浸透圧ストレス」と呼ばれる現象が起こり、細胞が水を取り込めなくなり、休眠状態になります。浸透圧ストレスは病原性細菌を殺すわけではありませんが、繁殖できない状態を生み出します。

水分活性とは、物質中の水のエネルギー状態を示す指標です。この指標を用いれば、ジャーキーに含まれる水が、特定の菌株の生育を支えるに十分なエネルギーを持っているかどうかを判断することができます。病原体によって、浸透圧ストレスへの対処の仕方は異なります。そのため、黄色ブドウ球菌はリステリア菌よりも低い水分活性でも生存できるのです。

水分活性を下げても細菌は死滅しませんが、加熱処理などの殺菌工程の後には、水分活性が細菌の増殖を制御する役割を果たします。そのため、水分活性はFSIS(食品安全検査局)の水分測定の指標として選ばれています。しかし、水分活性はそれ以上の意義を持っており、FSISやUSDA、HACCPの枠を超えた応用が期待されています。水分活性は製品内の水分を測定し、理解するための強力な手段なのです。

図1
水分活性は、常温保存可能な食肉製品に含まれる水分を測定し、把握するための効果的な手段です。

水分活性を活用した製造管理

水分活性は、食品の乾燥過程を管理する最良の方法と言えます。

なぜなら、以下の3つの重要な質問に直接関係しているからです:

  • 製品は安全か
  • 消費者は製品を好むか
  • 製品を製造し、かつ収益を上げることができるか

顧客満足:製品の一貫性を保証

顧客満足を確保するためには、お客様が求める製品をコンスタントに提供するための方法を考えなければなりません。特に製品の乾燥に関しては、同じ乾燥目標を継続的に達成することが求められます。含水率やMPR(水分とたんぱく質の比率)などの測定においても、一貫性を保つことが重要です。

時間や温度を調整することでも、水分活性の数値が変化します。そして、実際に製品を試食してみると、水分活性の測定値がジャーキーの食感と高い相関性を持っていることが分かります。

他の水分測定とは異なり、水分活性には測定標準があります。つまり、今日行った測定は、昨年行った測定、別の測定者が行った測定と比較することができます。また、バッチやライン、場所が異なっていても測定値を比較することや、リアルタイムの水分活性データを使用して、オーブンの温度や加熱時間を調整することも可能です。

仕入れた原材料の品質を確認したり、一貫性のある製品であることをバイヤーに証明したりすることもできます。

収益性を高める:過度な乾燥で生じる損失を回避する

製品を検査した結果、水分活性を監視していないとジャーキーの過乾燥が簡単に起こることが分かりました。たとえ小さな水分活性のバラツキであっても、品質や収益に影響を及ぼすのです。

実際、わずかな水分活性の違いだけで、出荷前のジャーキー1袋につき数十円の損失が発生することが判明しています。水分活性を用いて製品が適切に乾燥したかを判断することで、何千万円もの損失を防ぐことができるのです。

このように、水分活性を測定することで、微生物の繁殖を抑制するには十分低く、お客様に満足していただけるには十分高いという水分活性の最適範囲を特定することができます。そのスペックを毎日達成していけば、収益性を継続的に確保することができるでしょう。

リアルタイムデータによる工程管理

水分活性を工程管理に用いるための秘訣が2つあります。第一に、水分活性の測定は高速でなければなりません。第二に、表示されるデータはリアルタイム、またはそれに近いものである必要があります。

製造ラインで、容易&迅速に測定

AOAC(公式農業化学者協会)で認められている従来の方法では、乾燥の過程で水分含量を測定することはほぼ不可能です。また、迅速な加熱乾燥法は十分な精度を持っているとは言えません。これに対し、チルドミラー露点センサー波長可変半導体レーザーセンサーによる水分活性測定は、いずれもライン上で最短1分以内に行うことができます。

そして、お弁当を電子レンジで温めるのと同じぐらい簡単に、±0.003awの精度で水分活性を測定することができます。理系の学位は必要ありません。

リアルタイムの測定データ

工程管理において何らかの測定値を利用するには、自動でデータを収集できる仕組みが不可欠です。現在、新しい技術のおかげで、水分活性測定装置やその他の測定機器から直接かつ自動的にデータを収集することが可能になりました。ある製造現場では、手動によるデータ収集という「悪夢」を乗り越え、オーブンの温度を監視・管理するために必要なデータをほぼリアルタイムで取得できるようになりました。

正解はひとつではない

METER Groupは、常温保存可能な多種多様な食肉加工製品を自社研究所で検査しました。これらの製品は、塩、醤油、砂糖などの様々な保湿作用を持つ成分を加えることで、水分活性を管理していました。グリセリンが含まれているものは1つだけでした。これらの事例が示すように、安全な水分活性を得るために活用できる方法は数多くあります。

表1. 市販されている様々な食肉加工品の水分活性
ブランド 商品名 水分含量(%) 水分活性(aw
Hormel(Refrigerated) Italian Sausage Crumbles 51.18 0.9714
Old Wisconsin(Refrigerated) Turkey Sausage Snack Slices 55.02 0.9404
Jack Link's Beef Steak Tender Bites - Teriyaki 37.45 0.8664
Dismore's Grocery Store Beef Jerkey 40.66 0.8655
Great Value Beef Steak - Sweet Bourbon BBQ 36.07 0.8524
Jack Link's Chicken Nuggets - Flamin' Buffalo 40.51 0.8344
Bridgeford Pepperoni(Slices) 25.89 0.8344
Great Value Beef Jerkey - original 32.37 0.8336
Primal Spirit Foods, INC Primal Strips - Hot and Spicy 26.04 0.8309
Jerkey Direct Natural Buffalo Jerkey - Original 24.9 0.8286
Jack Link's Turkey Jerkey - Original 28.52 0.8221
Oh Boy! Oberto Original Beef Jerkey 27.7 0.8198
Oh Boy! Oberto BBQ Pork Jerkey 23.55 0.8151
Slim Jim Slim Jim Twin Pack - Original 17.23 0.7903
Jerkey Direct Organic Beef Jerkey - Teriyaki 23.59 0.7899
Sweet Baby Ray's Beef Jerkey - Original 25.05 0.7836
Jack Link's Beef Jerkey - Original 28.4 0.7768
Matador Beef Jerkey - Original 27.19 0.7764
Oh Boy! Oberto Bacon Jerkey 18.58 0.7542
Jack Link's Jerkey Chew - Original 29.46 ?
Tillamook Country Smoker Pepperoni Stick - Original 11.06 0.7094
Snack Masters Natural Salmon Jerkey - original 16.43 0.7094
Tillamook Country Smoker Beef Jerkey - Old Fashioned 20.13 0.6701
Snack Masters Natural Ahi Tuna Jerkey - Original 14.74 0.6069
Tillamook Country Smoker Beef Jerkey Slab 13.95 0.5798

より高度な配合を実現

この記事では、主に常温保存可能な食肉加工製品の水分活性について基本的な事項を説明してきました。もし興味があれば、さらに深く掘り下げて製品中の水分について理解し管理することができます。

  • 保湿剤(塩、砂糖、醤油)を加えることで水分活性を管理する方法を学ぶ
  • 乾燥時間や温度の変化が水分に及ぼす影響をモデル化する
  • 賞味期限を決定する
  • 製品が高温・多湿で保管されるとどのような効果があるかを理解する
  • 包装材を評価し、包装と賞味期限の相互作用を理解する
  • 製品を湿らせたり、乾燥させたりすることで、水分活性にどのような影響があるのかを知る

ビーフジャーキーの水分活性についてさらに学ぶ

水分活性がビーフジャーキーの品質と保存性に与える影響について、Brady Carter博士が説明します。

「Unlocking the Secrets of Beef Jerly with Water Activity」

 

マーケットレポート:ジャーキーのトップブランドの評価

ジャーキーのトップブランドを評価するために、私たちは地元の店舗、大手食料品チェーン、オンラインショップから様々なブランドのジャーキーを調達しました。伝統あるブランドと新規参入のブランド、自社で一貫製造しているブランド、自社で製造し別の施設で包装しているブランドを検査しました。

この15分間のウェビナーでは、METER GroupのScott Campbellが以下に示す事項について12のブランドを評価した調査結果をレビューします。

  • どのブランドが一貫性のある製品を提供しているか
  • どのブランドが安全な水分活性領域の限界に肉薄したのか、その理由とは
  • どのブランドが過剰包装で、どのブランドが最低限の包装を満たしていないか
  • 包装と乾燥に一貫性がない場合に生じる損失額

「MARKET SNAPSHOT: JERKY」

 

参考文献

Marianski, Stanley, and Adam Mariański. The art of making fermented sausages. Bookmagic LLC, 2009.