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研究者対象 水ポテンシャル完全ガイド#1

水ポテンシャルの測定について知っておくべきすべてのこと−水ポテンシャルとは何か、なぜ必要なのか、どのように測定するのか、測定方法の比較など。さらに、土壌水分放出曲線を用いて実際に水ポテンシャルを見ていきましょう。

なぜ水ポテンシャルを測定するのか?

ある生態学者が、斜面方向が植物の利用可能な水分に与える影響を調べるために、大規模な土壌水分センサーネットワークを設置しました。彼は土壌水分のデータを大量に集めましたが、結局、植物が利用できる水分の量を知ることはできず、フラストレーションに陥っていました。

「What is water potentialexplainer video 1- Why water content isn't enough」

 

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このようなフラストレーションを抱いているのは彼だけではありません。安価で正確な土壌水分センサーが登場したことで、当然なことに土壌水分の測定も普及してきました。しかし、多くの人が気づいたように、一つの優れた道具によって土壌の水に関わる問題の全てを解決できるわけではありません。土壌水分は土壌に存在する水の量を示すだけですし、透水係数は、水がどれだけ速く移動できるかを教えてくれます。 しかし水ポテンシャルは、水が植物にとって利用可能なのか、水が移動するかどうか、そしてどこへ移動するのかを示します。

示強性変数は、サイズや状況によって変化するものではない

水ポテンシャルとその必要性を理解するためには、示量性と示強性の特性について説明する必要があります。ほとんどの人は、土壌水分を土壌水分量という1つの変数だけで見ています。しかし、環境中の物質やエネルギーの状態を表すには、2種類の変数が必要です。示量性変数とは、物質またはエネルギーの範囲(または量)を記述するものです。そして、示強性変数は、物質やエネルギーの強度(または質)を表します。

表1. 示量性変数と示強性変数の例
示量性変数 示強性変数
体積 密度
水分量 水ポテンシャル
熱容量 温度

土壌水分量は示量性変数です。環境中にどれだけの水分があるかを表します。それに対して、土壌水ポテンシャルは示強性変数です。環境中の水の強度や質(そしてほとんどの場合、利用可能性)を表します。この仕組みを理解するために、示量性変数と示強性変数を熱という観点から考えてみましょう。熱量(示量性変数)とは、部屋にどれだけの熱が蓄えられているかを表します。それに対して温度(示強性変数)は、その部屋の熱の質(快適さ)、つまりあなたの体がどのように感じるかを表します。

図1
図1. 熱は高エネルギーから低エネルギーへ移動する

図1は、北極に浮かぶ大型船と、火で熱せられたばかりの鉄棒の比較です。どちらが熱容量が大きいでしょうか。興味深いことに、北極の船は熱棒よりも熱容量が大きいのですが、より温度が高いのは鉄棒の方です。鉄棒を船に接触させた場合、熱容量と温度で、どちらの変数がエネルギーの流れを支配するのでしょうか。答えは、示強性変数である温度です。温度が、エネルギーがどのように動くかを決定します。熱は常に高温から低温に移動します。

示強性変数と示量性変数の詳細についてはこちらをご覧ください。

水分量では水の動きを予測できない

熱容量と同様に水分量も量の変数、つまり示量性変数です。 大きさや状況によって変化します。次のような逆説を考えてみましょう:

  • 体積含水率がかなり低い土壌に植物が利用できる水分がたくさんあり、体積含水率が高い土壌に植物が利用できる水分がほとんどないことがある。
  • 重力によって水は下に引っ張られるが、水は地下水面から土中に上がっていく。
  • 平衡状態にある隣接する2つの土壌区画の水分量が大きく異なることがある。

このようなケースをはじめ、多くの場合、水分量のデータは水の動きを予測できないため混乱を招くことになります。それに対して、水ポテンシャルは水のエネルギー状態を測定するため、直感的に理解できない水の動きを説明することができます。気温が人の快適度を決めるように、水ポテンシャルは植物の快適度を決めるものと言えるでしょう。 水ポテンシャルを理解すれば、どのような環境で植物が元気に育つか、あるいはストレスを受けるかを予測することができます。

「What is water potential」

 

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水ポテンシャルが植物の快適度を決める仕組み

水分量は植物の「快適さ」を示す指標にはなりません。土、粘土、砂、鉢植え用土など、それぞれの培地で水分保持量が異なるためです。 例えば、体積含水率30%の砂を想像してみてください。表面積が少ないため、植物の生育に最適な状態よりも湿潤状態となり、根への通気性が損なわれ、飽和に近い状態になります。 次に、同じ体積含水率30%のきめ細かな粘土を考えてみましょう。粘土の表面が水分を結合し、植物が利用しにくくなるため、植物にとって最適な「快適さ」よりもはるかに低い水分量に見えるかもしれません。

図2
図2. 2種類の土壌の水分放出曲線は、表面積の効果を示している。10%の水を含む砂はマトリックスポテンシャルが高く、生物と植物が容易に水を利用することができる。一方で、10%の水を含むシルト質壌土はマトリックスポテンシャルが非常に低く、水の利用可能性が著しく低い。

水ポテンシャルの測定は植物が利用可能な水分を明確に示すものであり、水分量とは異なり、植物に最適な水分の範囲は、非常に湿った側の約-2~5 kPaから乾燥側の約-100 kPaまで、簡単に参照することができます。 それ以下では植物が利用できる水が不足し、-1000 kPaを超えるとストレスを受け始めます。 植物によっては-1000~-2000 kPa以下の水ポテンシャルで永久に枯れてしまうこともあります。表1はいくつかの種類の作物について簡単な基準範囲を示したものです。 それぞれの植物は、水ポテンシャルがこの表が示す快適範囲内に保たれることでストレスから解放され、より生産量が高まります。

表1
表1. 作物別水ポテンシャル基準範囲(出典:Taylor, Sterling A. and Gaylen L. Ashcroft. Physical Edaphology. The Physics of Irrigated and Nonirrigated soils. 1072.) 。植物は水ポテンシャルが快適範囲内に保たれていればストレスから解放され、より生産量が高まる。

ほとんどのアプリケーションでは、水ポテンシャルと水分量の両方が必要

植物の利用可能な水の指標としては水分量よりも水ポテンシャルが優れていますが、多くの場合、水ポテンシャルセンサーと土壌水分量センサーの両方を使用することが有効です。

「explainer video 3- How to use soil water potential」

 

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ここで述べておきたいのは、水ポテンシャルの強度測定が貯水量や必要な水量に直結するわけではないということです。灌漑管理や水収支の調査などの用途では、水分量の情報も必要とされます。詳しくは、こちらをお読みください: 「いつ水をやるか - 二重測定が謎を解く」をご覧ください。

水ポテンシャル101を見る

このウェビナーでは、Doug Cobos博士が、水ポテンシャルと水分量を区別し、水ポテンシャルの理論、応用、主要な構成要素、さらに水ポテンシャルが研究者や灌漑管理にもたらす意味合いについて説明します。

「Water Potential 101」

 

水ポテンシャルの定義

水ポテンシャルとは、水の標準状態に対する単位体積あたりのポテンシャルエネルギーです。この意味を理解するために、土壌サンプルに含まれる水とコップに入った水を比べてみましょう。コップの中の水は比較的自由で利用可能ですが、土壌の水は表面に結合しており、溶質によって希釈され、圧力や張力がかかっています。実際、土壌の水は「自由な」水とは異なるエネルギー状態にあります。自由水はエネルギーを使わずにアクセスすることができますが、土壌水はエネルギーを消費することによってのみ抽出することができます。土壌水ポテンシャルは、土壌サンプルからその水を引き出すために土、粘土、砂、鉢植え用土など、それぞれの培地で水分保持量が異なるため、どれだけのエネルギーを消費する必要があるかを表します。

土壌水ポテンシャルは微分特性です。測定に意味を持たせるためには、基準値を指定する必要があります。一般的に指定される基準は、土壌表面の純水や自由水です。この基準の水ポテンシャルはゼロです。環境中の水ポテンシャルは、ほとんどの場合、ゼロよりも小さいです。なぜなら、環境中の水を取り出すにはエネルギーが必要だからです。

水ポテンシャルは、次の2つの重要な疑問に答える

1. 水の動き

水は常に高いポテンシャルから低いポテンシャルへと流れます。これは熱力学の第二法則で、エネルギーは示強性変数の勾配に沿って流れるというものです。水は、図3に示すように、エネルギーが高いところから低いところへ、その位置が平衡に達するまで移動します。例えば、土壌の水ポテンシャルが-50 kPaだった場合、水は、よりエネルギーの低い-100kPaに向かって移動し、より安定した状態になります。

図3
図3. 水は常に高いエネルギー状態から低いエネルギー状態へと移動する。
2. 植物の水の利用可能性

液体の水は、土壌から根、植物の木部、葉へと移動し、最終的には葉の胎内空洞で蒸発します。この流れの原動力となるのが水ポテンシャル勾配です。したがって、水が流れるためには、葉の水ポテンシャルが土壌の水ポテンシャルより低くなければなりません。図4では、土壌は-0.3 MPa、根は-0.5 MPaとややマイナスになっています。これは、根が土壌から水を引き上げることを意味します。そして、その水は木部を通って上昇し、葉から排出されます。そして、この勾配の原動力となっているのが、-100 MPaの大気なのです。

図4
図4. あるシステムにおける水ポテンシャル勾配の例。土は-0.3 MPa、根は-0.5 MPaと負の値がやや大きくなっている。これは、根が土壌から水を吸い上げることを意味する。そして、その水は木部を通って上昇し、葉から排出される。この勾配の原動力になっているのが、-100 MPaの大気である。

灌漑管理者や科学者は、植物の水の利用可能性を理解するために、水ポテンシャルセンサーと水分量センサーを組み合わせて使用します。図5では、水分量が低下する場所と、植物がストレスを感じ始める水分量を観察することができます。 また、土壌水分が多すぎること、つまり、水ポテンシャルセンサーが植物のストレスを感知し始める水分量を超えていることを認識することもできます。 この情報をもとに、研究者は体積含水率12%から17%が植物の最適な水分量の範囲であると特定することができます。この範囲を下回ったり上回ったりすると、水が少なすぎたり多すぎたりすることになります。

図5
図5. 芝生のデータ:水ポテンシャルと体積含水率を組み合わせたもの

土壌の水ポテンシャルが植物の水の利用可能性を示す仕組みについてさらに学ぶには、「When to water: Dual measurements solve the mystery」をご覧ください。

水ポテンシャルの名称、範囲、単位

図6
図6. 各種水ポテンシャル測定領域比較

図6は、異なる水ポテンシャル範囲を測定するさまざまな水ポテンシャル測定器があることを説明しています。METER LABROSの測定器を組み合わせて、土壌の水ポテンシャルの全領域を測定する方法を動画でご覧ください。水ポテンシャルの測定方法と、どの測定器をどのような目的で用いるかについてさらに学ぶことができます。

「LABROS - Soil laboratory measurements」

水ポテンシャルはし、ばしば水の張力、土壌吸引圧、および土壌間隙水圧力と呼ばれます。土壌の水ポテンシャルを表現するのに、メガパスカル(MPa)、キロパスカル(kPa)、バール(bar)、メートルH2O(mH2O)、センチメートルH2O(cmH2O)、ミリメートルH2O(mmH2O)など、一般的に圧力の単位を使います。

水ポテンシャルは、実際には単位質量あたりのエネルギーで測定されるので、正式な単位は「1キログラムあたりジュール」になるはずですが、水の密度を考慮すると単位はキロパスカルになるので、一般的には圧力の単位で表現することが多いようです。

水ポテンシャルの構成要素

全水ポテンシャルは、4つの構成要素の合計です。

  • マトリックポテンシャル:表面への水の結合
  • 浸透圧ポテンシャル: 水中の溶質との結合
  • 重力ポテンシャル:重力場における水の位置
  • 圧力ポテンシャル:水にかかる静水圧や空気圧の大きさ

水ポテンシャルの計算方法

土壌の水ポテンシャルは、重力ポテンシャル+マトリックポテンシャル+圧力ポテンシャル+浸透ポテンシャルの4つの要素の合計です(式1)。

式1
式1

マトリックポテンシャルは、土壌表面に付着している水に関係するため、土壌に関する限り最も重要な要素です。図7では、マトリックポテンシャルが土の粒子に付着している水膜を作っています。水が土壌から流出すると、空気を含む間隙が大きくなり、マトリックポテンシャルが低下し、水は土壌粒子とより強固に結合します。

マトリックポテンシャル

マトリックポテンシャルは、水が水素結合とファンデルワールス力によってほとんどの表面に引き寄せられることから生じます。土壌は小さな粒子で構成されており、水を結合させる表面をたくさん持っています。この結合力は、土壌の種類に大きく依存します。例えば、砂質土は粒子が大きく、表面結合部位が少ないのに対し、シルト質壌土は粒子が小さく、表面結合部位が多くあります。

図7
図7. 土壌の断面図。土が水を吸着すると、土の粒子にまとわりつくような水膜が形成される。この水膜を作るのがマトリックポテンシャルである。

マトリックポテンシャルの働きを動画でご覧ください。

「Visualizing Matric Potential」

下図は、3種類の土の水分放出曲線を示したもので、表面積の効果を示しています。10%の水分を含む砂は、マトリックスポテンシャルが高く、生物・植物が容易に水分を利用することができます。10%の水分を含むシルト質壌土は、マトリックスポテンシャルがかなり低く、水の利用可能性は著しく低下します。

マトリックポテンシャルは常にマイナスの値またはゼロであり、不飽和状態における土壌水ポテンシャルの最も重要な構成要素です。

図5
図5. 表面積の影響を示す3種類の土壌の水分放出曲線

水分放出曲線、および土壌水ポテンシャルと土壌水分量との関係についてさらに学ぶにはこちらをクリック。

テンシオメータとTEROS 21は、どちらも現場でマトリックポテンシャルを測定するために用いる土壌水ポテンシャルセンサーです。どの圃場水ポテンシャルセンサーがあなたの用途に合っているかは、「あなたにぴったりの土壌センサーは?」をお読みください。

TEROS 21 水ポテンシャルセンサー
TEROS 21 水ポテンシャルセンサーは、灌漑のスケジュールに不可欠な水の利用可能性を測定します。

浸透圧ポテンシャル

浸透圧ポテンシャルは、水に溶けている溶質による水の希釈と結合の度合いを表します。このポテンシャルも常にマイナスです。

浸透圧ポテンシャルは、溶質の通過を妨げる半透膜のバリアが存在する場合にのみシステムに影響を与えます。これは、実は自然界ではよくあることです。例えば、植物の根は水を通しますが、ほとんどの溶質を遮断しています。また、細胞膜も半透膜のバリアを形成しています。あまり知られていませんが、空気と水の界面では、水は気相で空気中に通過できますが、塩類は取り残されます。

水中の溶質濃度がわかれば、次の式から浸透圧ポテンシャルを計算することができます。

式2

ここで、C は溶質の濃度(mol/kg)、ɸ は浸透係数(ほとんどの溶質で-0.9~1)、v は1 molあたりのイオン数(NaCl=2、CaCl2=3、スクロース=1)、R は気体定数、T はケルビン温度です。

浸透圧ポテンシャルは常にマイナスまたはゼロであり、植物や一部の塩類土壌において重要です。

重力ポテンシャル

重力ポテンシャルは、水が重力場の中にあるために発生します。重力ポテンシャルは、土の表面にある純粋な自由水との位置関係によって、正または負の値をとることができます。重力ポテンシャルは次のようになります。

式3
水ポテンシャル式3

ここで、G は重力定数(9.8m s-2)、Hは基準高さから土壌表面までの垂直距離(規定高さ)です。

圧力ポテンシャル

圧力ポテンシャルとは、水にかかる静水圧や空気圧のことで、水に引っ張られている状態です。システムのより大きな領域全体に作用する、より巨視的な効果です。

自然環境には、正圧ポテンシャルの例がいくつかあります。例えば、地下水面下には正圧が存在します。湖やプールで泳ぐと、この圧力を感じることができます。同様に、水面下では圧力ヘッドや正圧ポテンシャルが発生します。また、植物が持つ膨張圧や動物が持つ血圧も、正圧ポテンシャルの一例です。

圧力ポテンシャルは、次の式で計算することができます。

式4
式4

ここで、Pは圧力(Pa)、Pwは水の密度です。

通常、圧力ポテンシャルは正ですが、そうでない重要なケースもあります。植物では、木部で負圧ポテンシャルが発生し、土壌から根を経て葉に水を引き込みます。

水ポテンシャルと相対湿度

水ポテンシャルと相対湿度は、ケルビンの式で表されます。温度と湿度がわかっていれば、次の式で水ポテンシャルを計算することができます。

式5
式5

ここで、Ψ は水ポテンシャル(MPa)、HR は相対湿度(単位なし)、R は一般気体定数(8.3143 J mol-1 K -1)、MW は水の質量(18.02 g/mol )、T はケルビン温度です。

水ポテンシャルとは?覚えておきたいポイント

水ポテンシャル:

  • 環境中の水のエネルギー状態を表す。
  • 生物にとっての水の利用のしやすさを表す。

重要なポイント:

  • 水は常に高ポテンシャルから低ポテンシャルへ流れる。
  • これは「エネルギーは示強変数の勾配に沿って流れる」という熱力学の第二法則である。

土壌の水ポテンシャルに関する参考文献

Kirkham, Mary Beth. Principles of soil and plant water relations. Academic Press, 2014.

Taylor, Sterling A., and Gaylen L. Ashcroft. Physical edaphology. The physics of irrigated and nonirrigated soil. 1972.

Hillel, Daniel. Fundamentals of soil physics. Academic press, 2013.

Dane, Jacob H., G.C. Topp, and Gaylon S. Campbell. Methods of soil analysis physical methods. No.631.41 S63/4. 2002.