記事一覧

ナレッジベース

土壌水分データを解析する方法

土壌水分センサーと水ポテンシャルセンサーを地中に埋め、ATMOS 41複合型気象計測ユニットを設置し、ZL6データロガーの設定をしました。これらの装置のネットワークは、数日、数週間、あるいはシーズンを通してデータを収集することになります。さて、そのあとは何をするのでしょうか。研究場所の土壌水分データの解析を行うことはその1つですが、何が起こっているのかを理解した上で、問題を解決するために意味のある推論や結論を導き出す方法を探ることは、データ解析とはまた別のことです。

この記事では、複数のデータセットを通して、土壌水分量、土壌温度、土壌水ポテンシャル、および大気の測定値をどのように活用すれば、データの背後にある意味を発見できるかを説明します。この記事内では、データ中の以下の事象を特定する方法を学びます:

  • 異なる土壌タイプにおける土壌水分センサーの挙動
  • 浸潤(しんじゅん)
  • 洪水
  • 土のひび割れ
  • 凍結
  • 空間的変動
  • 温度影響
  • 水理学的再分配による日周パターン
  • センサー破損
  • 設置上の問題

各データセットはグラフで表現されます。これらのグラフの情報をすべて理解する必要はありません。各グラフは、土壌水分データの一般的なパターンと、そのパターンから最も有用な情報を推定する方法を説明するために使用されます。各グラフの右上隅には、土壌の種類と作物の種類を示すボックスがあり、変動要因をより的確に理解することができます。

提供されるデータはすべて、ZL6シリーズなどのデータロガーで収集され、ZENTRAクラウドにアップロードされ、ユーザーの都合に合わせて遠隔で見ることができます。すべてのデータセットは、METER Groupが所有する測定機器から得られたものか、またはデータ所有者から提供されたもので、許可を得て掲載しています。

図1. ZL6 Basicデータロガーでデータを収集し、ZENTRAクラウドのプラットフォーム内に保存した状態
図1. ZL6 Basicデータロガーでデータを収集し、ZENTRAクラウドのプラットフォーム内に保存した状態

土壌の種類による影響

図2. 芝草が生育している湿潤状態の壌質砂土の水分量と水ポテンシャルの測定結果
図2. 芝草が生育している湿潤状態の壌質砂土の水分量と水ポテンシャルの測定結果

図2には、芝草が壌質砂土を被覆した場合のデータが示されています。この実験を行った目的は、芝草の灌漑を改善することでした。この芝草の根域はかなり浅く、中央部は約6 cm、下部は約10 cmの深さでした。時間の経過とともに、この例では、まず6月と7月にかけて比較的湿った状態が始まり、7月と8月には一定の乾燥期間の状態、8月と9月には水の吸い上げが停止するまでの乾燥が見られました。

このグラフは、左のY軸が体積含水率、右のY軸が水ポテンシャルという2種類の土壌水分データを示しています。X軸は初夏から秋の始まりまでの時間です。これらのデータを分析するには、それぞれのデータセットを個別に見ていく必要があります。

図3. 図2に示した壌質砂土の芝草の湿潤時の様子
図3. 図2に示した壌質砂土の芝草の湿潤時の様子

図3は、先に紹介した芝草が生育している土壌の水分量と水ポテンシャルの両方を湿潤状態で示したものです。この芝草は壌質砂土で生育してます。グラフの上部を点線で表した水ポテンシャルセンサーは、全くと言っていいほど反応していないことに注目してください。しかし、土壌水分センサーは、日単位で灌水イベントを含む、驚くほど詳細な情報を示しています。

図4. TEROSシリーズ 体積含水率センサー
図4. TEROSシリーズ 体積含水率センサー

圃場は毎晩灌水され、センサーが水を検出したときの急な山形の反応は、深さ6cmのセンサーで確認できました。また、根域の底である15cmのところにも少し急な山形の反応が現れました。30 cmでも、データ上は水分の増加が見られましたが、深さ15 cmのセンサーよりも曲線が丸みを帯びていました。水ポテンシャルはまったく変化が見られませんでした。粒子のサイズが大きすぎて、その粒子が抱えている水をセンサーが感知できなかったのです。では、この壌質砂土の中の最適な条件下で何が起こっているかというと、非常に興味深いことがわかります。

図5. 図2に示した壌質砂土の芝草の最適条件での様子
図5. 図2に示した壌質砂土の芝草の最適条件での様子

この部分では、6cmの土壌水分量データが夜間は平坦になり、日中は低下していることが確認できました。これは連日見られ、植物が根域の最下部である6 cmでどれくらいの水分を吸い上げているのかを知ることができました。15 cmのところでも毎日下がっていますが、根域の最下部よりもさらに深い位置であるため、それほど顕著ではありません。

図6. TEROS 21 マトリック水ポテンシャルセンサー
図6. TEROS 21 マトリック水ポテンシャルセンサー

図5では、土壌層を通して排水される水はそれほど多くありませんでしたが、これは本当に良いことでした。7月14日に深さ30cmのセンサーで少しピークがありましたが、その後の灌漑イベントでは変動はありませんでした。この壌質砂土は、散水された水に対して非常に反応が良いのです。水ポテンシャルのデータでは、6 cmのセンサーで小さな反応が見られました。これは、-200〜-400 kPaの範囲に低下しただけで、この芝草のストレス範囲外のため、ストレスを示すものではありません。

図7. 図2に示した壌質砂土の芝草の干ばつ時の様子
図7. 図2に示した壌質砂土の芝草の干ばつ時の様子

干ばつ時には、深さ6cmで段階的で最適な水の吸い上げが確認されました。このデータセットで問題となったのは深さ15cmの水ポテンシャルで、深さ6cmの水ポテンシャルと同じように高くなり、水が吸収されずに土壌から浸出していることがわかりました。9月5日頃に突然止むまで、毎日のように吸い上げが確認されましたが、9月5日ごろの時点で芝草は土から水を吸い上げることができなくなり、活発な生育から休止へと変化しています。

この土壌水分のデータセットでは、水ポテンシャルがプラスからマイナスに転じ、-1500kPa(永久しおれ点)まで下がるという、実に興味深い曲線を描いています。吸水できる水分がないため、この芝草は休眠状態にあったのです。このような干ばつ状態において、データは水分量と水ポテンシャルの低下を明確に示していましたが、残念ながらこのケースでは、土壌の乾燥が進行するまで、農家はデータの兆候に対処しませんでした。

図8. よく灌漑された埴壌土における種芋の水分量データの一例
図8. よく灌漑された埴壌土における種芋の水分量データの一例

壌質砂土ではなく、埴壌土というきめ細かな土壌の場合はどうなるのでしょうか。図8は、アイダホ州南部で種芋を栽培していた直径700mほどの埴壌土で、私たちは6カ所にセンサーを設置しました。このグラフは、シーズン中、水分量がほとんど変化せず、2~3%程度しか変動していないことを表しています。生産者はこのデータを見て、「この畑の水を止めるべきタイミングをどうやって判断すればいいのだろう」と思案していました。このデータだけでは、その判断が難しいことは、過去のウェビナー「Water Resource Capture: Turnign Water into Biomass」で説明したとおりです。水分量データは、水の有無や量を判断するのにはかなり役立ちますが、植物にストレスがかかっているかどうかや、水が足りなくなった時期を把握するのにはほとんど役に立ちません。

図9. 図8と同じ圃場の水ポテンシャル測定結果
図9. 図8と同じ圃場の水ポテンシャル測定結果

植物のストレスレベルと水分吸い上げ能力を理解するためには、マトリック水ポテンシャルを調べる必要があります。土壌水分量のデータでは、シーズンを通して一貫した、特別な変化のない水やりが行われていたことがわかりますが、6カ所のうち3カ所のマトリック水ポテンシャルがストレス域に低下し、1カ所は永久しおれ点近くまで低下しています。これらの場所の植物の葉温は、IRT赤外線温度計などの機器で測定したところ、気温よりもはるかに高い温度が記録されました。また、これらの場所の収穫量は、ストレスが測定されなかった場所の収穫量よりもはるかに低く、水ポテンシャルの測定とその測定が示す問題の兆候に妥当性があることがわかりました。

浸潤

図10. 秋の砂漠の砂壌土における自生系の体積含水率
図10. 秋の砂漠の砂壌土における自生系の体積含水率

図10の砂壌土は、ラッシュバレーの砂漠に見られる土壌です。この例では、いわゆる作物を調べるのではなく、自生系の中にいる外来種を調べています。測定機器を設置した理由は、チートグラスなどの外来種が、この地域の在来植生を駆逐している理由を知るためでした。緑色の線は降水量を表し、水平の線は異なる深さに設置された3つの水分量センサーの測定値を表しています。

図11. ATMOS 41 複合型気象計測ユニット
図11. ATMOS 41 複合型気象計測ユニット

この土壌水分データを見れば、4~5mmの降水でも深さ5cmのセンサーにはほとんど影響がなく、10cmと20cmのセンサーには目立った影響が見られないことに気づかれるでしょう。なぜ、降水が水分量データに現れなかったのでしょうか。いくつかの要因があります。この測定期間の前には、非常に長く、暑く、乾燥した夏があり、土壌の温度はほぼ毎日40℃を超え、土壌を疎水性にしていました。また、土壌が粉雪のように乾燥していたため、水分がすべて吸収され、表面で保持された後に再び蒸発し、水が土壌の深部へ移動する機会がなかったのです。

図12. 砂漠の砂壌土における在来種の夏期の体積含水率
図12. 砂漠の砂壌土における在来種の夏期の体積含水率

図12は、同じ砂漠の砂壌土の土壌水分を、その年の初めに測定して得られたデータです。このグラフには降水量のデータは含まれていませんが、深さ5cmの水分センサーに見える各山形の反応と相関して、湿潤現象が発生しています。深さ5 cmのセンサーでは、5月28日頃に湿潤現象が起きていますが、深さ10 cm、20 cmのセンサーには反映されていないことに注意してください。6月2日頃の湿潤は、10 cmの深さで目立った反応を示しましたが、20 cmには到達していません。さらに驚くべきことに、最大の湿潤現象は6月14日頃に発生し、10 cmの深さではまったく表示されませんでしたが20 cmの深さでは小さな山形の反応を生み出しています。これらの土壌水分データを分析すると、何がわかるのでしょうか。

同じエリアの前回のデータセットと同様に、土壌の表層は最初の湿潤イベントで水分を多く吸収し、土壌が下方に排水する機会を与えずに高い蒸発需要に供給しただけでした。2回目の雨で水位が上昇し、一部の水は深さ10 cmのセンサーまで到達しましたが、20 cmには到達しませんでした。さらに大きな謎は、最後の湿潤現象です。なぜ、5 cmと20 cmのセンサーでは水分量が増加したのに、10 cmでは水分量が増加しなかったのでしょうか。

雨が降ると、土壌の表面に水が一様に分布し、均一に浸透すると考えがちですが、必ずしもそうとは限りません。雨水は土の中を一つの塊として進むのではなく、枝分かれした指のように土の中を進み、必ずしもすべての土の粒子に触れるとは限りません。この場合、水の指の1本が深さ10 cmのセンサーの周囲を回り、そのまま深さ20 cmのセンサーまで移動した可能性が高いです。これがこのデータの異常の最も可能性の高い説明ですが、そのエリアの浸潤に問題がないかを確認するためには、そのエリアを継続して監視することが重要です。

浸水の兆候

土壌水分データの解釈のために、気象モニタリングについて知っておくべきことをまとめた「気象モニタリングマスタークラス」という教育ガイドを作成しましたが、土壌内で何が起きているかを理解する上で気象モニタリングが効果的である例をいくつか紹介しましょう。数年前、METER Group本社があるワシントン州プルマン市で洪水が発生しました。町の幹線道路に平行して流れるミズーリフラットクリークという非常に小さな川が氾濫し、通りやその途中にある複数の企業に浸水し、被災範囲は地域の中心部に大きく広がりました。なぜこのようなことが起こったのでしょうか。果たしてデータは、差し迫った洪水の危険な兆候を理解するのに役立つのでしょうか。

図13. 洪水発生前の1週間のワシントン州プルマン市の降水量
図13. 洪水発生前の1週間のワシントン州プルマン市の降水量

図13の降水量データでは、洪水が発生した理由を説明することはできませんでした。最大の降水量は3mm程度に過ぎません。複数のセンサーが同じ降水量を示しており、この小さな川で発生した規模の洪水の可能性は示唆していないようです。何が起こったのかをよりよく理解するためには、その地域の土壌水分量の測定に目を向ける必要があります(図14)。

図14. ワシントン州プルマンで発生した洪水までの土壌水分量測定結果
図14. ワシントン州プルマンで発生した洪水までの土壌水分量測定結果

土壌水分量は、4月6日に湿潤現象が発生するまで非常に安定しており、20cmレベルで上昇し、その後40cm、60cmと90cmで少し、さらに120cmで若干の上昇を見せました。4月7日の終わりごろには、土壌の上層部から水が排出し、下層部へ徐々にしみこむようになりました。その後、雨が降り続いたため、9日には60cmの水分量が他の水分量と同様に平坦になって飽和になり、洪水が起こることを示すようになりました。そして4月9日の終わりにさらに雨が降り、ミズーリフラットクリークは堤防を越えてしまったのです。

図15. 洪水イベント発生直前と開始時のミズーリフラットクリーク堤防の水深
図15. 洪水イベント発生直前と開始時のミズーリフラットクリーク堤防の水深

図15はクリークの側面に沿った水深を示したもので、水位が1mに保たれていることがわかります。最後の降雨は水位が岸を超え2.5m近くに達しました。土壌水量の変化の無い期間と相関しています。

ひび割れ

テキサス州南部に位置する高収縮膨潤性粘土であるシップクレイ(図16)では、複数の体積含水率センサーを挿入し、土壌割れが発生した場合の土壌水分量データの解析の様子を説明しました。

図16. テキサス州南部の高収縮膨潤粘土における水分量センサー
図16. テキサス州南部の高収縮膨潤粘土における水分量センサー

センサーの挙動を比較すると、興味深いパターンが見えてきます。深さ20cmのセンサーの1つは、湿潤イベントのたびに緩やかに低下しましたが、同じ深さのもう1つのセンサーは、一般的に砂質土壌で予想されるような急降下を示しました。では、この粘土の中で何が起こってこのような数値が出たのでしょうか。このデータセットで見られる現象は、急カーブに変化したセンサーが粘土の収縮率の高い部分に埋め込まれていたため、センサー周囲の土壌が収縮して空隙ができ、電磁波センサーが予想したほど高い値を示さなかったということです。図16は、この急降下が土壌のひび割れを示していたことを示す好例です。

凍結

図17. 冬期に外来種が生育した砂壌土の凍結時の水分量と降水量
図17. 冬期に外来種が生育した砂壌土の凍結時の水分量と降水量

図17は、気温の影響で枯死した外来種を含む砂壌土の現場です。雨が降るたびに、水分量の測定値が跳ね上がり、その後、階段状にギザギザに下がっていることに気づきます。このセンサーは埋もれたままになっていたのでしょうか。このデータの変動を説明できるものは何でしょうか。温度の測定値をグラフに加えると、何が起きていたのかが明らかになります。

図18. 冬期に外来種が生育している砂壌土の凍結時の体積含水率、降水量、温度
図18. 冬期に外来種が生育している砂壌土の凍結時の体積含水率、降水量、温度

図18の黒い太い横線は0℃、つまり凍結を表しています。温度測定と凍結点を追加することにより、凍結によって水分量の測定値が低下し、変動しているように見えることが明らかになりました。気温が氷点下以上になると含水率は再び上昇し、予想される範囲に入ります。この関係は理にかなっています。水が凍れば凍るほど、センサーが水の存在を検知するために使っている電気的な磁場に対して水分子が消えていくのです。すべての水が凍ったわけではないので、水の量がゼロになったわけではありませんが、かなり減っています。解凍すると、土壌の水分量はなめらかになり、凍結前の状態に戻ることがデータから確認されました。これは、凍結時に予想されるパターンです。図19は、同じデータセットを1年単位で見たものです。凍結現象が、夏のデータの滑らかな増減とは明らかに異なっていることに注目してください。冬季の点線は、凍結イベントが発生しない場合の水分量データで予想されるパターンです。

図19. 図18と同じデータセットを拡大し、全年間のデータを含むようにしたもの
図19. 図18と同じデータセットを拡大し、全年間のデータを含むようにしたもの

空間的な変動

図20は種芋のある粘土壌土の例で、それぞれ3~4km離れた7つのエリアにセンサーを設置しました。センサーの設置は、大量の降雪の後に雨が降った冬季に行われました。

図20. 埴壌土の7箇所の水分量測定値(すべて種芋を植えたもの)
図20. 埴壌土の7箇所の水分量測定値(すべて種芋を植えたもの)

水分量データを読む経験レベルにもよりますが、データセットの最初の方でさえ、これら7つのセンサー間でなぜこれほどまでにばらつきがあるのかと思うかもしれません。このばらつきは、土壌の種類に起因するものです。また、土壌の種類が同じように分類されていても、各スポットには独自の基準ラインがあります。土壌の水分量の測定値を同じスポットで過去に測定したものと比較することが重要で、どんなに近い場所でも次の場所で同じ測定値を期待しないことが大切です。しかし、同じ圃場の同じ期間の水ポテンシャルデータを調べてみると(図21)、これらのセンサーの水ポテンシャルはいずれも±10kPa以内でスタートしており、驚くほど近い値になっていることがわかります。これが、土壌の種類に関係なく、圃場全体の水ポテンシャル測定値を使用することの威力です。

図21. 図20と同じ7カ所の水ポテンシャル測定結果
図21. 図20と同じ7カ所の水ポテンシャル測定結果

温度感応度

夏場は、特に土壌表面に近い測定値は、ある程度の水分量の変動を考慮することが重要です。そうすると、すべての水分量センサーは温度センサーとしても機能することになります。

図22. 夏期における水分量と気温の測定値から、気温の変動が水分量の測定値に与える影響を示す
図22. 夏期における水分量と気温の測定値から、気温の変動が水分量の測定値に与える影響を示す

図22では、1日の気温の変動が±14℃であることを示しています。このような温度変化の知識がなければ、水分量測定値のギザギザは水の水文学的な動きと間違って解釈されるかもしれませんが、本当は熱の変化が土壌水分量に及ぼす影響を示しているのです。水分量の小さな変化は、実際には0.0003㎥ m-3 /℃に過ぎません。

水の再分配

ここまで、植生による水分吸い上げの兆候と思われる例をいくつか紹介しましたが、データをさらに調べると説明がつきました。では、あなたのデータでは、水理学的再分布はどのように見えるのでしょうか。土壌から植物への水の吸い上げがあることを証明できるかどうか、4つのグラフを連続して見てみましょう。各グラフは、互いに500m以内の同じ灌漑小麦畑の同じ期間にわたるデータを示しています。

図23. 同一圃場内の6サイトにわたる深さ15cmの水分量測定値と散水・降水量データの組み合わせ
図23. 同一圃場内の6サイトにわたる深さ15cmの水分量測定値と散水・降水量データの組み合わせ

図23は、圃場全体の深さ15cmの水分量を示したものです。灌漑は7月末まで行われ、灌漑停止点の後に数回の降水がありました。各水分センサーは典型的な日周パターンを示しており、一見すると気温の変動に見えるかもしれませんが、この時期の畑は小麦の葉で覆われ、葉面積指数(LAI)は4~5程度で、土壌表面まで届く放射はほとんどありませんでした。このため、日周変動が温度変化に起因するものであるとは考えにくいです。このパターンは、灌漑が停止され、植物が可能な限り吸水したときにのみ停止しました。

図24. 図23と同じ圃場で、深さ45cmの水分量測定結果
図24. 図23と同じ圃場で、深さ45cmの水分量測定結果

図24の深さ45cmでは、6月上旬には日周パターンは見られず、6月下旬になって初めて顕著になりました。7月下旬に水を止めたあたりで、日中の低下と変化のない夜間という日周パターンが最も顕著になりました。このデータは、土壌の奥深くにあるため、温度変化よりも植物が水を吸い上げることに近いと言えます。

図25. 図23と同じ圃場の深さ65cmでの水分量測定結果
図25. 図23と同じ圃場の深さ65cmでの水分量測定結果

より深い土壌では(図25)、7月中旬から下旬までは同じように日周の階段状の変化は見られず、8月に入ってからよく見られるようになりました。

故障したセンサー

私たちが製造するすべての測定機器において精度と信頼性は最も大切な要素ですが、どのようなセンサーでも故障を引き起こす要素は他にもあって、例えば設置やメンテナンスです。

図26. センサーの故障の可能性を示すデータの例
図26. センサーの故障の可能性を示すデータの例

図26 は、故障したセンサーがデータ上でどのように見えるかを示す好例です。複数のセンサーが非常に安定した線を描き、スムーズにデータが流れていましたが、突然1つのセンサーだけがほぼ瞬時に落下し、大量の変動データを提供し始めました。幸運なことに、このユーザーのセンサーはZENTRAクラウドに接続されており、センサーの故障を自動的に警告してくれたので、連続測定の中断を最小限に抑えながらタイムリーに対処することができました。このケースでは、センサーのプラグが外れていたことが原因でしたので、データロガーに再び差し込むと、センサーは完全に動作し続けました。

設置に関する問題

最後に紹介するのは、設置時の問題によるデータの不具合です。

図27. 被覆作物のないシルト質壌土の水分量測定値
図27. 被覆作物のないシルト質壌土の水分量測定値

すべての科学的な取り組みと同様に、測定値を分析する前に、どのような情報が得られるかを知っておくことが重要です。図27に示すようなシルト質壌土の場合、土壌はかなり湿っており、体積含水率30%以上の測定値が得られると予想されます。しかし、2つのセンサーが10%以下の値を示していたのです。このような場合はセンサーを点検し、再設置する必要があると思われます。

土壌水分データを解釈するためのポイント

それぞれの状況やデータセットは異なります。データから正しい推測や推論ができるようにすることは、結論の妥当性を高めるために非常に重要です。このことを念頭に置いて、固有のデータを解釈する際に留意すべき点をいくつかまとめてみましょう。

  • 予期せぬものを発見することを期待する。センサーを設置する理由は、土壌で起こっていることをすべて把握しているわけではないからです。すべてを把握しているつもりでいると、重要な兆候が無視されることになります。
  • 土壌の水分は、土壌によって異なる挙動を示す。粗い土壌の土壌水分データと細かい土壌の土壌水分データが同じであることはないでしょう。時間をかけて土壌の種類を理解し、専門家と協力して、正しい測定値を得るようにしましょう。
  • 土壌が水を取り込んで蓄える能力は、水の浸潤を止めることができる。データに変化がない期間が見られたら、浸潤が止まっているか、逆に土壌が水浸しになっていないか注意してください。
  • ひび割れしやすい土壌に注意する。一部の土壌(特に粘土)は、センサーの周囲に亀裂を生じさせ、結果に影響を与える可能性があります。自分が扱っている土壌がどのようなものかを把握し、データからこのような現象が見られないか、常に注意してください。
  • 凍結により、土壌の水分がセンサーから見えなくなることがあります。凍結した水はセンサーが検出しなくなるため奇妙な挙動としてデータに示されます。精度を維持するためには、連続性は犠牲になりますが、データの一部をデータセットから削除する必要があるかもしれません。
  • 土壌の水分量は空間的な変動が大きい。同じ現場に設置された複数の水分量センサーにはばらつきが出ます。変動が全くない場合は故障を疑ってください。逆に土壌水ポテンシャルセンサーの場合は、測定値に一貫性があれば正常に働いていると言えます。
  • 日周パターンは複数の意味を持つことがある。水分量測定値の日内変動は、土壌表面近くの温度変動や、根の水や再分配によって引き起こされることがあります。日周パターンの原因を特定するためには、水分量だけでなく、すべての変数を調べることが重要です。
  • 設置の不備はセンサーの性能に大きく影響する。電気的に故障したセンサーだけでなく、設置が不十分なセンサーでも問題は発生します。研究への影響を最小限に抑えるためには、データを見続け、ZENTRAクラウドから提供されるアラートに注目し、迅速に対処することが重要です。

「How to Interpret Soil Moisture Data — Discovering the Meaning Behind the Traces」

※設定(歯車マーク)をクリックし、「字幕」→「英語」→「字幕」→「自動翻訳」で日本語を選択してご視聴ください。